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世界の起点

 

 ナスカは初夏の明るい夕方、空が映り込んでいる水田の間を歩いていた。

 

 アスファルトの黒く硬質な直線が、水田の間をまっすぐに伸びていた。

 

 ナスカの周り一面には、水が張られた何枚もの水田が広がっていた。風はなく水田はピタリと静止していて、昼間と夕方の間の空を寸分の狂い無く映し出している。空の色と、水の色と太陽の光が混ざってそれは、何枚も隙間なく敷き詰められていた。

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ファーストクラスという入れ物

 ハゲトは今、出張帰りで特急列車の中にいる。

 仕事は頑張っているつもりだが、いつも空回りしがちだった。さらにハゲトのある思考パターンが、いつもいらぬことを考えさせ、ハゲトの仕事、ハゲトの人生を邪魔していた。

 混雑しているエコノミークラスの指定席で、疲れた体を沈めているハゲト。ふと、斜め前の席に座る男性が目に入った。ハゲトと同じくビジネスマン風の男性で、座席前の小さなテーブルを開き、そこにバインダー型の手帳、付箋がたくさん貼付けられているメモとノートを広げて、右手にはボールペンが握られていた。

 カリカリとバインダーにメモを取り、考え込み、またノートにもメモを取り、時々スマートフォンで調べ物をしたりしていた。列車の中でも時間を惜しんで、仕事に励んでいるようであった。

 その男性を見て、ハゲトは思う。

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全てうまくいくスイッチ

 ハゲトは人生に半分絶望していた。

 

 出世することも、お金持ちになる事もできず、夢を追いながら日々をなんとか生きている状態だった。私生活が特に充実していることもなく、生きているとうまくいかない事が多い、まるで意図的にうまくいかないように仕向けられているようだ、と感じていた。

 

 ハゲトは良く晴れたある日、気分転換をしようと思い立った。海岸の崖の上に、ほんの少し草が生えている場所を見つけて、そこに家から持ってきた座布団を敷いた。

 

 そこに座りこみ、海の向こうを見つめ静かに息を吐き出し、薄目になって自分のココロの中を覗いてみた。

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幻想の豪華客船

 これは、伝染病が世界に流行する前の話し。

 ナスカはお金を貯めて、念願の豪華クルーズ船の一週間の旅に出かけた。10万トンを超える超大型船で、そこでは艶やかで怠惰な生活が待っているはずだった。

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消滅した世界の終わり

 月の無い夜の中、ハゲトは仕事帰りのたんぼ道を歩いていた。街灯は無く、控え目な街の明かりがわずかに視界を与えるだけで、暗闇が広がっていた。夏のべったりとした空気はハゲトの腕に纏わり付き、どろどろとハゲトを歩かせた。