白い蝶‐1:記憶の海の島

 

 ナスカは春風の吹く頃、旅に出た。列車を待つプラットフォームで春の匂いを感じ、暖かさを感じ、風がナスカの髪を撫でていた。居るだけで気持ちよく、その心地よさを黙々と味わっていた。

 

 ナスカは島に行くための列車に乗った。しばらくするとトンネルの中に入った。窓の外は暗く、鉄の車輪と鉄のレールがこすれる音がトンネルの壁に響き、車内に激しい音が入り込んできた。

 

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世界の起点

 

 ナスカは初夏の明るい夕方、空が映り込んでいる水田の間を歩いていた。

 

 アスファルトの黒く硬質な直線が、水田の間をまっすぐに伸びていた。

 

 ナスカの周り一面には、水が張られた何枚もの水田が広がっていた。風はなく水田はピタリと静止していて、昼間と夕方の間の空を寸分の狂い無く映し出している。空の色と、水の色と太陽の光が混ざってそれは、何枚も隙間なく敷き詰められていた。

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