バカな男の話し「僕は貧乏性だからねぇ」

今日のバカな男の話し。

👉その男は今朝、自分よりも地位の高い人間(しかも自分より若い)が「僕は貧乏性だからねぇ」と言っているのを聞いた…

バカな男はそれを聞いて『俺より給料もらってるクセに何が貧乏だ』と思った。

そして、激しい劣等感を持った。さらにその日ずっと、劣等感に包まれたままだった。

── バカな男の、バカな話し。

ヤバい ことに気付いた…!

バカな男が、またバカなことを朝から考えていた。

👉よく考えたら、よく考えなくても、この地球はいつか終わるんだ。

 地球どころか、太陽も、銀河系も、いや、宇宙全体も、永遠ではない。

 ヤバい… いつかはなくなってしまう…

 今のうちにやろうと思っていることをやってしまわないと、地球はなくなってしまう。どうしよう…

 あっ、地球どころか、太陽も、宇宙全体もいつかは収縮して無くなってしまうんだった。 ああ、どうしよう…

 ───

 そして結論は得ないのだった。それがそのバカな男の日常であり、そんなバカな男がこの宇宙の一部を形作っているのだった。

ベルトの穴にやられた男

 その男は、大きな会社の会社員だった。やるべき事はやり、何事にも手を抜かず、いつも最大限にパフォーマンスを発揮していた。

 ある日、大勢のお客さんの前でのプレゼンテーションがあった。その直前に、コンビニエンスストアで買った菓子パン類を昼食として食べた。ところが食べ過ぎたのか、腹がきつい事に気付き、ベルトを緩めようと手をかけた。

 そして自分のベルトの穴が、ひどく傷んでいる事に気づいた。

 不摂生により腹が出て、それを無理やり締め付け、酷使されたベルト。ベルトの留め金を無理に通され、楕円形にひん曲がったベルトの穴達。おまけに表面の『ビニールで出来た皮』が穴の周囲で剥げており、下地の茶色のビニールだか紙だか分からないものが見えていた。それはベルトの穴の周辺だけでなく、ベルト全体にその無残なひび割れを晒していた。

 男は唖然としてそれを眺めた。そして、男の前にプレゼンテーションを行った男性が演壇から下りてくるときに、彼のベルトを鋭い目線で見て、自分のベルトと比較した。

 彼のベルトの穴は、正確な円だった。円の周囲の『本革』はピンとしており、剥げているところはどこにもない。真っ黒で、綺麗なままの穴達が並んでいた。見るからに、ちゃんとしたベルトだった。

 男はその事に気付いた瞬間から、絶望的な気分になった。まるで誰かに深い谷底に落とされたように、気分が落ちていった。

 自分がどうしようもなくみすぼらしく、劣っているようにしか考えられないようになった。あいつはちゃんとしたベルトをしている、私はボロボロのベルトをしている。あいつは年相応のものを身に付けている、私はいい年をしてみすぼらしいものを身に付けている…

 その男は『ベルトの穴』に完全にやられていた。小さな小さなベルトの穴に、完膚なきまで打ち負かされていた。直径5ミリにも満たない小さな穴に、全ての自信を奪われた。

 男はオドオドとした様子でプレゼンテーションを行った。目は泳ぎ、どこにも自信を感じさせるものはなかった。

 しかし実際のところ、その男の傷んだベルトの穴など、誰も見ていなかった。誰もそんなことに興味がなかった。

 その男は、ベルトの穴ごときにやられただけだ。