世界に浮かぶ、立派な大きな船と、小汚い小さな船。

 今、我々のほとんどが乗っている船は、大きくて立派で、部屋が無数にあって、すごく豪華な部屋もいくつか用意されている、そんな船です。
 
 すごく豪華な部屋は、部屋数が少ないのですよ。そしてそこに住むヒトはだいたい決まっていて、その部屋をなかなか譲ろうとしないのです。
 
 そしてですね、その中でも一番いい部屋だけが本当に快適で、その他の部屋は豪華であっても、常に不安定な場所にあるのですよ。いつも「誰かにこの部屋を獲られるんじゃなか?」という不安でいっぱいなのです。
 
 その次のランクの部屋もたくさんあるのですが、その中でも細かいランクがあって、部屋の住人の入れ替わりが激しく、まったく落ち着かないのです。
 
 そしてみんな、だいたいそこにいるのです。
 
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 船は進み、いくつかの分水嶺を通過します。
 
 分水嶺に着いたとき、上位ランク80%までの部屋に住むヒトは、そのままこの船に残ることができるのですが、下位20%のランクの部屋のヒトは、下船しなければならないというルールがあるのです(8:2の法則)。
 
 下船したヒトは、ずっと小型で、小汚い船に乗ることになります。
 

 
 小型の船は、まず人が少ないです。そして、目指すべき豪華な船室もありません。みんな、だいたい同じような部屋です。
 
 その船は風任せで動く帆船で、ゆっくりと海を走ります。追い風がないときは、休んでしまいます。
 
 今まで乗っていた大型船は、たくさんの重油を燃やし続けて、ものすごいスピードで行ってしまいました。
 
 小型船に乗り換えた我々は、豪華な部屋を目指して競争することもなく、のんびりと過ごすのですよ。
 
 静かで、時間がゆっくり流れています。
 
 豪華ではなく粗末な食事、体にいい食事が摂れます。
 
 ゆっくりと眠れる時間があります。休日もちゃんとあります。
 
 大型船には、大きくて立派な病院がありました。その病院は、常にヒトでいっぱいでした。
 
 ココロの病気になるヒトが多かったです。
 
 しかも、みんな病気になっても無理して働こうとするので、病院は大忙しでした。
 
 この小型船には、小さな病院しかありません。身体やココロの調子が悪いと、みんなすぐに休むので、大きな病気にならないのです。 
 
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 我々が乗り換えた小さな船は、風任せで海を漂っています。
 
 自分で行き先を決めることもできますよ、小さい船ですので。
 
 大型船は、行き先を「普通委員会」で決めています。みんながあっちへ行こうと決めれば、普通はみんなそれに従います。普通はこっちだろう? とみんなが言ったら、こっちに行きます。
 
 それは、何かの重大な使命を帯びたかのような目的地に、みんなで向かっているつもりになっています。
 
 でもですね、大型船も、立派な行き先が決まっているようでいて、実は何も決まっていません。
 
 大海原を漂っているだけなのに、何か大きな使命を帯びているかのように振る舞っているだけなのですよ。
 
 そこに矛盾が生じて、船内はいつも穏やかでなく、みんな殺気立ち、競争し、イライラしています。
 
 我々の小型船は、もともと風任せで漂っているだけなので、穏やかに海に浮いています。
 
 そう、この世界のどの船も、実はどこにも向かっていないのです。完璧な行き先なんて、この世界、この宇宙のどこにもないのですよ。
 
 だから我々は、嬉々として小さな船に乗っているのです。