『最高の幸福に包まれている村』

2018年5月14日

ナスカは旅に出た。南海のある孤島の奥地には原住民の村があり、最高の幸福に包まれている村、という噂だった。

ここは、絶海の未開の孤島だ。整備された港もなく、上陸するには小さな小舟に乗り換えて、足を濡らして砂浜に降り立たねばならかった。

ナスカははやる気持ちを抑えながら濡れた足をサッと拭い、快適で幸福に暮らす島の村に向かった。

そこは歩いても一日あれば一周できそうな、小さな島だった。

島の奥地まで、歩いて数十分といったところだろうか。道と言うには心細い、獣道のような道を歩く。もちろん車は走っていない。

ナスカの草を踏む音以外には、鳥の鳴き声と、小動物が木々を駆けずり回っている気配と、ろくに言葉が通じない年配女性ガイドのかけ声が聞こえた。少し離れたところに、海の音も聞こえる。島の中央には山がそびえ立ち、そこから流れてくる水の音も聞こえた。

それしか聞こえなかった。街に住むナスカにとって、生き物が出す音、自然の音しか聞こえないのは変な感じがした。それを変な感じと思うナスカの方が変だった。

村が近づいてきた。遠くから人の声が聞こえた。子供達が遊んでいる声だった。その声がすぐにハッキリと聞こえるようになり、村の入り口に着いた。

村の入り口は簡素な作りで、外界と遮断する意図は感じられず、人の手で時間をかけて作り込まれた、アーティスティックな門があった。それはシンボルだった。

村の住人は数十人から100人くらいと聞いていたが、その倍はいるんじゃないか、と思わせる活気があった。

皆若かった。ナスカの知っている40代の人が、ここでは60代といった感じだった。驚くべきことだ。

ストレスと無縁なのだ。全員が、自らの生を謳歌していた。

「どうしてあなたたちは、そんなに幸せそうなのですか?」と、ナスカは彼らに尋ねた。

「どうしたお姉ちゃん? 食べるものが無いのかい?」と、おじいさんが答えた。

ナスカはハッとした。

おわり