『すべてを手放す覚悟はあるか─ 』

 男は全てを手放した。前には道があるだけだった。これから死へ向かう時間の経過、これからの残された可能性があるだけだった。

 今、万策尽きた。自分の思うところはすべてやってきた。その結果、手の中には何も残っていなかった。このやり尽くした結果を今、受け入れるしかない。

 しかし、しかしだ。どんな結果でも、それはその人間にとって、万策を尽くしてきた結果と言えるのではないのか。

 生まれたときから今の瞬間まで、人間は最善を尽くして生きている。最善を尽くして心臓を動かしている。

 そういうふうにできている。楽をしてきたとか、何も考えていなかったとか、そういうことは、そうする必要があったからだ。休息が必要だったのだ。

 全ての人間が、最善を尽くしてきた今に立っている。

 男の目の前には、残っている可能性という一筋の道が、現れていた。