駅前のカミサマ─【3】次の町へ

2018年5月18日

もくじ
【1】改札口に立つ老人
【2】大丈夫
【3】次の町へ行かれる

【3】次の町へ

ある晩、その方はいつもの時間に改札口前にはいらっしゃりませんでした。エスカレータを下りていくと、その先の通路の脇に立ってられました。いつもと雰囲気が違いました。そして何やら、行くか、行かざるか、といった風に歩を前後させて、迷われているような感じでした。表情もいつもの穏やかな笑顔ではなく、何か深く考えられているお顔でした。今思えばこの日、本当に迷われていたのでしょう。

翌日の事です。その日はいつもより早く私は駅まで帰り着きました。時間が早いので、もちろんあのお方は立っていらっしゃいませんでした。私は買い物をするために、駅に近いショッピングモールに入りました。入ってすぐのところで、件のお方とすれ違いました、いえ、果たしてそのお方だったかどうか、すぐには分かりませんでした。と言いますのは、いつものような、にこやかでゆったりした雰囲気ではなく、キビキビとした動きで、精悍な表情でいらしたからです。着ているものが小奇麗で、足元はボロボロなのはいつもの通りなので、そのお方には間違いありませんでした。

私はすぐに振り返り、失礼の無い距離で後を追いました。壁に貼り付けられていたこの日のチラシを素早くチェックし、驚くほど俊敏に階段を上られて行かれました。いつもとは全く違う、予想外のキビキビした動きに私は戸惑ってしまい、また後をつけるなど失礼ではないかという思いもあり、距離を置いて階段を上がりましたので、見失ってしまいました。その後、四階建てのフロア全てを探し回りましたが、ついに見つけることができませんでした。このお方の日常を暴くようなマネをしないで済んだ、というホッとした気持ちもあり、その日はまた会えるだろうと思っていました。

しかしそれ以来、そのお方は改札口に立たれなくなり、お見かけすることがなくなってしまいました。寂しさを感じましたが、おそらく、この町の人々は私も含め全員救われたのだろう、そして、次の町の人々を救いに行かれたのだ、と考えました。そうやって町から町へ、足元がボロボロになるまで人々を救いに回られておられるのでした。

私の町を出発される前に、迷ってらっしゃいました。私はそんな姿を見て、あのお方でも迷われる時があるのだと、日々迷いの中にいる私に勇気を与えてくださいました。敢えて、迷っている姿も見せていただいたのです。

それ以来この町におられなくなったその方は、「あなたは大丈夫。」というメッセージを世界中の町の人々に伝え回っておられる、と私は考えます。

おわり
 
 
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